「3人の女」に愛された「男」:「白い巨塔」:「成功者」の思考パターン
「白い巨塔」観ました。
五夜連続、しかも21時から放送されるので、「全部観るのは難しいかも」と思っていましたが、結局、予定を調整して、5話全て、がっつりと観ました。
医療現場に深く、鋭く、容赦なくバッサリと切り込んでくるストーリーは、「心が苦しく」なる場面もたくさんありました。
それでも、見るのをやめる事が出来なかったのは、原作の素晴らしさもありますが、俳優さんたちの演技の素晴らしさもあり、「目が釘付け」になりました。
「医療現場」で働いた経験があるので、「医療」をテーマにしたドラマや映画を見ると、「こんな理想通りにはいかないのに」とか「現場は綺麗事では回らないのに」とか、そんな気持ちになってしまうので、あえて避けていますが、「白い巨塔」は、「医療」の枠を超えた「医療現場」のドラマだと思います。
自分らしく生きることは、大きなものを失うこと
その事実を、あらゆる角度から、見せつけてくれる「物語」です。
何かを貫く時、必ず何かを失います。
それは「お金」「時間」だけでなく、「人」もまた失います。
それでも貫きたい「覚悟」があれば、手に入れることはできるけど、手に入れた時から、また、貫く事が「進化」して、また、失って、手に入れて。
その中で、「人」は冷酷に去っていきます。
でも、「愛」する人は、最後まで、ずっと寄り添ってくれる。
だから、傷ついてもまた、立ち上がって、歩き続けていける。
だから、「愛」は「人」をとても強くしてくれます。
「財前五郎」は、浪速大学医学部の外科医で、「腹腔鏡のスペシャリスト」として、医学界だけでなく、マスコミでも「カリスマ」として注目を集める「スーパードクター」です。
「白い巨塔」は、「財前五郎」が、数々の「敵」と戦いながら、「トップ」に上り詰めていく様が描かれています。
彼は、「妻」「愛人」「母」の「3人の女」から愛されました。
「3人の女」は、それぞれの「立場」で彼を愛し、彼もまた、それぞれの「自分」で愛を返していきます。
「妻」は彼の「肩書き」を愛します。
彼の「肩書き」が、自分の「レッテル」でもあるからです。
「妻」の父親の「立場」と「財力」を、フル活動して、彼を支え続けます。
彼女は、どんな時でも、「最高の妻」を演じ切ります、それは、そうすることが、上り詰めたい彼の希望であり、夢だからです。
目に見える「形」ある「ステイタス」を彼がたくさん勝ち取るためだけに、彼女は振る舞い続けます。
時には、辛くなったり、心が潰れてしまうほどの孤独感を感じても、それを一切封印して、彼のために「妻」として、彼を愛します。
彼もそれに応えてくれて、仕事に邁進し、上を目指すために、「敵」と真っ向から戦いました。
たとえ、彼の「病魔」が彼の命を奪おうとしていても、そんな状況を表に出すことは、彼の「敵」に対して、「弱点」を曝してしまうことになります。
なので、彼女は、教授夫人の集まりにも、精一杯のおしゃれをして出かけ、「幸せな教授夫人」を演じ切りました。
「妻」はとても強い女性です。
「愛人」は彼の強さを愛します。
それは「肩書き」を超えた、「男」としての強さを信じているからです。
彼が、どんな壁も打ち破り、欲しいものすべて、自分の力でもぎ取れる「男」であると、知っているからです。
だから、彼も、彼女の前では、「わがままな思春期の男の子」のように振舞います。
たとえ、世間から反感を買ってしまったとしても、「あなたは、そうしたいんでしょ。あなたの思うようにすればいい」と、時には冷たく言い放ち、時には優しく諭します。
だから彼は、自分は夢を全部叶えるために生まれた「特別な存在」だと「勘違い」する事ができます。そして、「根拠のない自信」を武器にして、上り続けていくのです。
「崖から突き落とす」と、彼は離れて行ってしまうかもと、失う不安感で頭がいっぱいになったとしても、上り詰めることが彼の夢なので、その為だったら、自分たちの関係を清算してもいいと、そんな気持ちは彼には悟られないように、彼を愛し続けました。
「愛人」はとても強い女性です。
「母」は彼の「存在」を愛します。
「財前五郎」が何を持っていても、そこには関心を持ちません。
ただ、存在してくれていれば、「母」にとって、それが「全て」です。
だから、「ご飯、ちゃんと食べてる?」「何か欲しいものがあったら送ってあげようか?」と、いつも彼との電話で言うのです。
そして、「元気な声が聞けて、私は幸せよ」と、彼に言います。
だから、彼は、「母」に心配をかけたくないので、具合が悪くても、疲れていても、いつも「元気で頑張っているよ」と答えます。
たとえ、彼の病状が、とても「元気」とは言えない深刻なことになっていても、彼が「元気」だと言うから、「元気で良かった」と、明るい声で、答え続けました。
電話を切った後で、泣き崩れてしまっても、もう電話を切っているから彼には知られることはありません。
「母」はとても強い女性です。
彼は、それぞれの「女」に、愛を込めて「最後の言葉」を送ります。
「子供が作れなくなってごめん」
彼は「妻」に言いました。
「財前家」のステイタスだった「教授」の座を手に入れ、次は「跡取り」を手に入れるため、「夢」の続きを見る予定でした。
「こんな事になって、父も大暴落したって言ってるわよ」
ちょっと冗談めかして、彼女は言います。
彼女の心が「そんな事どうでも良い。死なないで欲しい。」と叫んでいても、それを彼に悟られないように言います。
それを彼に悟られてしまったら、今までの「彼の苦労」が色褪せてしまうから。
彼は、彼女が財前家の娘としていられるために、必死に頑張ってきたのです。
最後まで「財前家の婿」として生きて欲しい。
だから、彼女は彼が最も喜んでくれる返事をしました。
「また、会いに行くから。どこにいても、探し出して会いに行くから、待っていて。」
彼は「愛人」に言いました。
それが、たとえ不可能だと分かりきっていても、
「待ってるわよ。」
彼女は、色っぽい視線を彼に注ぎ、艶やかに言います。
彼女の心が、「これ以上無理はしないで。もう充分戦ってきたから。これ以上何も手に入れられなくても良いから、死なないで欲しい。」と叫んでいても、それを彼に悟られないように、彼女は言います。
彼は、彼女が、獲物を次々に仕留めるたびに、褒めてくれたから、だから頑張ってこられました。
もう獲物を追う事が出来なくなっていても、最後まで獲物を追い続ける彼でいさせてあげたい。
「夢」を失って欲しくない。
だから、彼女は、彼が最も喜んでくれる返事をしました。
「落ち着いたら、母さんの顔を見に帰るからね」
彼は「母」に電話で言いました。
彼女は、彼の命の火が消えかかっている事は充分承知していました。
「忙しいのに、気を使わなくて良いよ。こっちのことは心配しないで。」
穏やかに、彼女は言いました。
彼女の心が、「あなたが病気になるなんて、そんな理不尽なことは、受け入れなれない。あなたの代わりに私が病気になりたい。」と叫んでいても、それを悟られないように、彼女は言います。
彼は、自分がこの世に存在している事が、彼女の全てであるから、存在がなくなるその瞬間まで、彼女に、自分の命の火が消えてしまう事を伝えたくないのです。
彼の存在がなくなる瞬間まで、彼に、全てを失う苦しみを自分が彼女に背負わせしまう後悔をさせたくない。
だから、彼女は、彼が最も喜んでくれる返事をしました。
彼は、「3人の女」を、精一杯、愛しました。
「自分らしく」あるために、その人を「守る」事は、同時に、「守り」続けてくれる人を、どんな時でも守らせてあげられる「自分」でいる事でもあります。
「愛する」と、とても強くなり
「愛される」と、とても弱くなります。
だから、「成功者」は、愛し愛される人だと思います。